「マスター、この野盗たち、どうしたらいいと思う?」
「そうだなぁ」
セルニアと合流した後、早速マスターに<メッセージ/伝言>を飛ばす
私としては野盗は一度私たちで引き取って何とかするべきだよなぁなんて漠然と考えているのだけれど、そうなると私たちだけの判断ではどうにもならないからだ
「うん、そうだね。あっまるん、ちょっと待ってね」
「はい」
横に居るギャリソンとなにやら相談しているような雰囲気だけど、流石にすぐにはどうしたらいいか決められ・・・あれ?なんかマスター楽しそうだ
感情があいまいだからなのか、伝えるべきでは無いと考えているからなのか、はっきりと情報として伝わってこないなぁ
けどマスター、あちらでの話し合いで何か面白い事でも思いついたのかな?
「それじゃあ、あやめ、お願いね。あ、まるん、大丈夫だよ全員連行しても」
「はい、では一応拘束してつれて・・・」
「あっ待って」
そこまで言おうとして、マスターに止められる
またギャリソンと何か話しているような雰囲気がして、その話を受けてマスターが話しかけてきた
「まるん、村人って怪我はしていないの?」
「えっ?あっ、怪我をしている人はいますよ。野盗に襲われたのですから」
襲われたのを見てすぐに助けに入った訳ではなく、最初は見捨てるつもりだったから、当然多くのけが人は出ているはずだよね
集会所で村長と話をした時に奥の広間をチラッと見た感じ、あの場の雰囲気からすると命にかかわるような怪我の人は居ないみたいだけど、手前の部屋から見えるほど怪我人が入り口近くまで寝かされていた所を見ると、骨折程度の怪我をした人はかなりの数に登るんじゃないかな?
「そうかぁ、なら私が一度そちらに出向くよ」
「マスターがですか!?」
マスター、メルヴァに止められていたけどよほど来たかったんだろうなぁ、こんな言い訳を見つけてでも
そんな不遜なことを考えていると
「まるん、なんか変な事考えているでしょ」
「そっそんな事は無いよ!」
と、図星をつかれてしまった
あれ?でもこっちの感情はマスターには伝わらないって話じゃなかったっけ?しっかり伝わってるじゃないか
「別にこじつけで行く訳じゃないよ、ちゃんとギャリソンと話し合って決めたことなんだから」
「あ、そうなんですか」
どうやらこの村に来たいと言う理由で来る訳ではないらしい
ではなぜここに来るんだろう?治療なら魔女っ子メイド隊のヒーラーでいいはずだけど
「まぁ、詳しい話はそちらでするよ」
「わかりました、お待ちしております」
こうして<メッセージ/伝言>は切れた
まぁ、魔法で来るだけだし、すぐ来るのだろうなぁと思っていたのだけれど・・・
「マスター、来ないねぇ」
「そうだねぇ」
その後1時間ほど待ってもマスターは現れなかった
流石に直接私たちの居る場所に転移はしないだろうと、連絡を取ってからすぐにセルニアが野盗の監視を私たちと交代してイングウェンザー城側の村の入り口までマスターを出迎えに行ったんだけどまったく帰ってくる気配は無い
「マスター、遅いねぇ」
「何かあったのかな?」
流石にこれは遅すぎると思い、何か予定が変更になったのかもしれないから一度指示を仰いだほうがいいかなぁ?なんてシャイナと話し始めた頃、セルニアが私たちの元に帰ってきた
やっと来たみたいだね
でもマスター、来るまでに意外とかかったなぁなんて思っていたら
「シャイナ様、まるん様、アルフィン様が乗った馬車が到着されたそうです」
「えっ?馬車で来たの?」
予想外に、魔法ではなく作りかけの物をわざわざ仕上げて馬車で来たみたい
てっきりグレーター・テレポーテーションかゲートで来るとばかり思っていたので驚いたけど、よくよく考えたら当たり前か
「私たちの主人と紹介したのだから、徒歩で来る訳には行かないよね」
「それに見た事がない場所へは飛べないはずだし、こちらの状況を知らないって事は遠隔視の鏡も使っていないはずだからね」
そう言をいながら、シャイナと二人お出迎えに向かう
イングウェンザー城の方角にある方の村の入り口へ向かうと前方にとても大きく、こんな村に存在するにはあまりに絢爛豪華な4頭立ての馬車(繋がれている馬も騎乗用より大柄な特別製アイアンホースだ)が止まっていた
そしてその馬車の横には
「あ、あるさんだ・・・・って!?」
「姫様だ、ミルフィ姫様がいる・・・」
そこにはアニメ「CAT DAYS!」の主人公が所属する国のプリンセス、ミルフィ姫のドレスを着たアルフィンがいた
確かにこの間決めた通りギルド長のあるさんは私たちの姫様だし、ピンクがメインカラーだけど
「まさかコスプレで来るとは思わなかったよ」
「う〜ん、確かにお姫様だからあれであっていると言えばあっているけど・・・」
何と言うかなぁ、コスプレと解っている私たちからするとなんか違和感がある
でも、村人たちの反応は違うようで、執事然としたギャリソンを伴ったマスターを見て、まるで貴族か女王様を見るかのような雰囲気だ
まぁ、コスプレと言ってもティアラや装飾品に使われている貴金属や宝石は本物だし布地や縫製は最高級、コスプレと知らなければ確かに姫にしか見えないけど
「あっ、シャイナ、まるん」
違和感バリバリながらも、自分たちの中で何とか納得させながら近づいていくと、マスターがこちらに気付いて近づいてきた
「わざわざありがとう、あるさん」
「アルフィン、その格好・・・」
とりあえず周りに聞こえないように服装を指摘すると
「ああこれね、お姫様って事で尼木シャイニーパークのラティ姫にしようか悩んだけど、あっちは裾が広がりすぎて外を歩くには向かないからこちらにしたのよ」
「なるほど、確かにあれのほうがお姫様っぽいですね」
つい納得してしまったけど、マスターって姫じゃなくて支配者だったよなぁ
まぁ年齢的に女王様と言うよりお姫様と言った方が違和感ないけど
「ところで、怪我をした村人はどこにいるの?」
「ああ、こっちですよ」
シャイナにギャリソンと村長との仲介を、セルニアに野盗の監視をそれぞれ任せて、怪我人を集めて寝かせている集会所へ向かう
集会所は村にある他の家よりも一回り以上大きく、家と言うより倉庫か体育館のような佇まいで、その中にある広間にはシーツのようなものが敷き詰められ、その上に怪我をした村人たちが簡易的な治療を施されて横たわっていた
広間に立ち入った瞬間はそれほど凄惨さは感じない
それは野盗が間違って殺してしまわないように剣で攻撃しなかったからなのか、斬られた様な傷を負ったものが皆無だったために血の匂いがしなかったからだ
しかし、そこに寝かされている村人たちはほとんが骨折以上の重傷を負った人たちで、彼らの口から漏れるうめき声がこの場に寝かされている人には五体満足のものは誰もいないと訴えていた
それを確認した後改めて集会所の中を見渡してみると、寝かされている怪我人たちは一応骨折した場所に添え木をしたり、布を裂いただけの包帯モドキで簡単な治療はしてある
だけど、この村では近くにモンスターが生息する森も無く、凶暴な野生の動物もいない為、普段では大怪我をすることが滅多にないらしくて、怪我を治す神官やポーションどころか薬草さえほとんど無いらしく、そのせいで誰も彼も十分に処置を施してあると言うには程遠くて、まるで補給が絶たれた最前線の野戦病院のような雰囲気だった
「これはひどいね、店長が持ってるポーションは使わなかったの?」
「人数が多すぎて焼け石に水だからね」
これが死にそうな人がいるようなら使うのだけど、あの野盗たち、律儀と言うか、殺すのを本気でためらっていたと言うか、絶対に致命傷にならない腕や足を折ることはあったけど、頭や内蔵を痛める可能性のある肋骨は骨折するほどの怪我を負わせていないんだよね
ユーリアたちのお母さんの受けた頭の擦過傷を含む軽い打撲が、頭の怪我の中では一番重症なくらいだ
ただ、手足の骨折をしている人数は思いのほか多く、40人以上動けないほどの重傷を負った人がいるため、ポーションを使うわけには行かなかったんだよ
村の大人たちの内、比較的程度の軽い人も含めたら男の人の3分の2くらいはどこかしら骨折しているんじゃないかな?
当然だけど、怪我をしたのは男の人だけではなくて、女の人の中にも大勢いる
ただそちらは骨折までは行かない程度の怪我がほとんどだけど
「確かにこれだけいたんじゃ、持ち歩いている程度の数ではあまり意味を成さないね」
「それに、村長が言うにはポーションを使ってもらうにしてもお金が払えないというんだよ」
マスターが来るまでに聞いたのだけど、どうやらこの国周辺では神殿が怪我の治療を担っているらしく、魔法やポーションを使って治療をする時は絶対に治療費を取らないといけないらしい
これを無制限に許してしまうと神殿の利益にかかわってくる為、冒険者などが魔法で治療を無料で行うと場合によっては神殿から刺客が送られる事もあるらしいのだ
「また面倒な規則があるんだなぁ」
「そうだよねぇ」
でも、この状況を放って置くこともできない
死にはしないかもしれないけど、治療が遅れたら、深刻な後遺症が残る人も出てくるかもしれないからね
「で、神殿には連絡したの?」
「それが一番近い神殿がある町までかなりの距離があるらしくて」
「まだって事ね」
私の説明を聞いてマスターは考え込んでしまった
マスターはヒーリング系の魔法が使えるから、魔法を使っていいのならこの程度の人数、あっという間に治療してしまえるだろう
でも、それをした場合、この村人たちがその治療費を払えるとはとても思えない
しばらく考えた後、マスターが何か思いついたように顔を上げた
「マスター、何か考え付きました?」
「まぁね。まるん、悪いけどシャイナと店長を連れてくれない?」
「あ、はい」
よくは解らないけど言われたとおり広場まで戻り、野盗の監視をマスターがつれてきたメイド4人(聖☆メイド騎士団に所属している子たちだ)の内の二人に任せてセルニアを連れ出し、次に村長の家で一人になってしまうギャリソンの補佐として二人のメイドを残して変わりにシャイナを連れ出した
「マスター、用事って?私は戦うのは得意だけど、直すのはちょっと苦手なんだけど・・・」
「アルフィン様、私ができる治療はもう済ませていますが」
どんな理由で呼ばれたのかさっぱり解らないという顔の二人
それはそうだろう、呼びに行った私ですら何を考えているのか解らないのだから
何をしていいのか解らず、所在なさげにしている二人に対してマスターは説明するどころかさらに混乱するような事を言い出した
「二人とも、野党と戦ったんだから当然怪我をしたよね?」
「えっ?いや、私たちは・・・」
「(強い口調で)怪我をしたよね?」
あんな一方的な戦闘で怪我などしている訳がない
でも、マスターが有無を言わせぬ勢いでそう言うのだから、二人ともとりあえず首を縦に振る
「そうかぁ〜、それでは治療をしないといけないね」
「ああ、そっか、確かにそうですよね。早くシャイナたちの治療をしないと」
悪戯っ子全開の表情をしてうんうんとうなずくマスター
なるほど、そこまで言われてやっと何をしたいか理解できたよ
言葉を投げかけられたシャイナも、得心がいったと言う顔でうなずいている
「まるん、村人の治療にはお金を取らないといけないけど、身内への治療魔法は問題ないよね?」
「はい、当然仲間への治療は問題ないです!」
理解をした顔と態度を示したからだろう、マスターは私に対して周りにちゃんと聞こえるような少し大きな声で、わざとらしい説明芝居を始める
「じゃあ、シャイナとセルニアは私からちょっと離れてね、魔法をかけるのに近すぎるとやり辛いから。あ、そうだ、あの辺りがいいんじゃないかな?」
「そうですね、あの辺りがいいと私も思います」
そう言うと二人で集会所の中心辺りを指差す
そこは怪我をして寝かされている村人たちのちょうど中心辺りでもある場所だ
ここに来て唯一何を言っているのだろう?といった顔だったセルニアも理解したようでシャイナと二人、何が起こるのか不安顔の怪我人たちの間を、間違ってぶつかったりしないよう慎重に歩きながら広間の中心辺りまで移動した
「えっと、ヒーリングやリジェネーションは個別ターゲット魔法だから突っ込まれたら言い訳できないしダメだよね。よし、あれにしよう」
マスターは手に持っていたスティックを構え魔法の詠唱を始める
「<ワイデンマック/魔法効果範囲拡大><ヒーリングレイン/癒しの雨>」
シャイナとセルニアを中心に青白く光る魔法陣が広がり、集会所全体を範囲内に収めるくらい大きくなった後、その範囲内に癒しの効果を持った光の粒が雨のように降り注ぐ
この光の粒、<ヒーリングレイン/癒しの雨>って言うのは、効果範囲内にいる者の怪我を敵味方関係なく1分ほどの間、少しずつ回復させ続ける魔法で、性質上戦闘中には使えないけど、複数のパーティで拠点攻略などをする際に怪我をして後方の陣地に下がってきたパーティを回復させたりする時にはとても重宝する回復魔法一つで、その中でも一番低位の物だ
まぁ、低位と言っても1レベルにも満たない村人の怪我を治すと言うのなら十分なもので、見る見るうちに村人たちの怪我が治っていき、あっという間に集会所全体に回復した人やその家族の歓喜の声が広がっていった
そうなると当然その人たちが口々にお礼の言葉を述べに来るのだけど
「まるん?なんか村人たちがありがとうと言ってるみたいだけど、何かあったっけ?」
「さぁ?アルフィン様はシャイナたちの怪我を治しただけで、村人たちには何もしていないから解りませんねぇ」
と、あからさまに照れて顔を赤くしているマスターに話を合わせ、二人で逃げるように集会所を出て行く
このままここに居続けるには、私も照れくさくてたまらないからね
因みに怪我人たちの中心に居たシャイナたちは当然逃げ遅れ、村人たちに囲まれてしまっていた
大変だろうなぁ、あれは
「さて、次はシャイナたちが捕まえたという野盗たちの処置だね」
「はい、こちらです」
後ろから聞こえてくる
「マスタぁ〜、まるん〜、待ってぇ〜」
と言うシャイナの声を無視・・・じゃなくって聞こえないフリをしてマスターと二人、足早に集会所を後にした
13日更新と書いたけど、12時回ったから実際は14日更新です
さて、第一話以来のコスプレですw
この話の主人公はオタクなので王族とか貴族の知識はちゃんと持っているんだろうけど、いざ実践しようと思うとアニメや漫画、ラノベの中のキャラクターに引っ張られます
なので色々と変な振る舞いをしてしまうのですが、着ているものや身につけている装飾品がすべてこの国の最高級のものより上質なものなので、この国の人たちからすると主人公たちの国ではこれが普通なのだろうと勝手に解釈してくれます
特に物に対する見る目が確かな人ほど
それに、村人ならばもともと実際の王族を見たことが無いので比較できないから、普通こんな服着ていたら変じゃね?って服でもそんなものだと感じてしまう事でしょう
因みに集会所で寝かされていた人たちは当然アルフィンが他国の支配者だと知らされていないので魔法で癒してはくれたけど、服装からして冒険者でも神官様でもないだろうから通りすがりの親切な魔法を使えるお金持ちなんだろうなぁ位にしか思ってません
なので平気でお礼を言いながら握手を求めてきたりします
後で相手の地位を知らされたらものすごくびっくりするだろうなぁw